てつさらです。

前回の投稿で、禅の悟りの境地においては、自分とその他のものとの境界が無くなって、外の世界と一体化する、というお話をしました。

今回はそれに関連するお話です。

 

■自分が外の世界と一体化する?

「自分が外の世界と一体化する?そんなことありえるの?」…と疑問をお持ちの方もいらっしゃると思います。

ありえるのです。

そのことを実際に体験した人の話が、TEDの動画で公開されています。(ただし、それは禅の修業を通じてではなく、脳の血管が破裂することによってもたらされたのですが…。)

「ジル・ボルト・テイラーのパワフルな洞察の発作」という講演の動画です。(TEDのサイトからと、YouTubeから、2つ貼り付けます。同じものです)

■ジル・ボルト・テイラーに起こったこと

Observing a Stroke from Within
Observing a Stroke from Within / jurvetson

ジル・ボルト・テイラーは、ある朝、脳卒中の発作に襲われます。脳科学者である彼女は、そのときに自分の脳に起こった驚くべき事態を振り返って、詳細に解説しています。

脳卒中によってダメージを受けたのは、彼女の左脳でした。

左脳は、言語の働きをつかさどっています。言語の働きにより、私たち一人ひとりに、「私はある(I am.)」という意識が生まれます。「私はある」と言った瞬間に、私は外の世界と切り離されるのです。私は確固たる一人の人間となり、他の人との間には明確な境界線が引かれます。

一方、右脳にとっては感覚が全てです。情報はエネルギーのかたちをとって、全ての感覚システムから同時に一気に脳へと流れ込み、それが巨大なコラージュとなって意識に現れます。右脳の意識を通して見ると、私は、自分を取り巻く全てのエネルギーとつながった存在で、そこには明確な境界線はありません。

Exercise Plays Vital Role Maintaining Brain Health
Exercise Plays Vital Role Maintaining Brain Health / A Health Blog

左脳にダメージを受けた彼女は、自分の体の境界が分からなくなっていることに気づきます。自分がどこから始まり、どこで終わるのか、その境界が分からなくなったというのです。自分の体の分子が、壁の分子と交じり合って一緒になっているような感覚です。

やがて、左脳の機能が全停止し、全くの静寂が彼女を包み込みます。唯一感じ取れるのは、エネルギーだけ。彼女は最初は戸惑いますが、やがて周囲の大きなエネルギーに魅了されます。自分の体の境界が取り払われて、自分が大きく広がっていくように感じたのです。自分が全てのエネルギーと一体となるという素晴らしい感覚に貫かれます。(その魅惑的な空間を、彼女は「ラ・ラ・ランド(陶酔の世界)」と呼んでいます。)

時々、左脳の機能が少しだけ回復して、「大変だ、なんとかしなければ」と自分に訴えかけますが、すぐにまた、右脳だけの、平和で満ち足りた世界に浸りきります。それは過去のあらゆるストレスから開放される、素晴らしい世界なのです。その境地のことを、彼女は「ニルヴァーナ(涅槃、天国)」とも呼んでいます。

その後、彼女は無事病院に運ばれ回復へといたります。ニルヴァーナを経験した後では、「この大きくなった自分を、再び小さな体の中に押し込めるのは無理だろう」と思ったそうです。

ただ、「自分はニルヴァーナを見た」という紛れも無い事実が、彼女のその後の人生を支えるのです。世界は美しく、平安で、思いやりに満ちた愛する人で満たされている。そして、左脳から右脳へと歩み寄ることで、その世界は誰にでも実現可能なものとなる、彼女はそう確信します。

 

■坐禅によって美しい世界へ至る

禅における悟りの境地も、おそらくジル・ボルト・テイラーのいう「ラ・ラ・ランド」の世界に近いものだと思います。

Fall Retreat - Dedication.jpg
Fall Retreat – Dedication.jpg / Big Mind Zen Center

禅僧たちは、坐禅などの手段を通じて、「ラ・ラ・ランド」へと人為的に至ろうとするのです。つまり禅僧たちも、左脳から右脳へと歩み寄っているわけです。

そこは、美しく、平安で、思いやりに満ちた世界なのです。

以上、てつさらが、さらっと書きました。