てつさらです。

前回の投稿で、竹宮惠子さんの特殊なビルの描き方について書きました。

あの一枚のビルの絵には、遠くからの視点、中間地点からの視点、近くからの視点、という複数の視点が凝縮されています。

そのような視点は、現実にはありえません。しかし、それは現実を超えたマンガ上の現実なのです。

このことについて、竹宮さんは、「マンガはリアルじゃなくてリアリティ」と述べています。現実世界(リアル)にはあり得ないが、マンガ的には現実(リアリティ)だというのです。

この「リアル」と「リアリティ」の違いの別の例として、竹宮さんは透視図法について述べています。

透視図法とは、人が3次元の世界を2次元の平面に描く場合に一般的に使われる手法です。遠近感を表現するのに適していて、マンガでもごく普通に使われています。

透視図法には、一点透視図法、二点透視図法などがあります。(詳細は、このページを参照)

竹宮さんは、この透視図法で機械的に描かれた絵はリアルではあるけれども、それはマンガとしてのリアリティとは違う、というようなことを言っています。

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竹宮:だから、その「地平線に対して集中しない」っていう考え方がアシスタントに通じなくて本当に苦労するんです。「だって学校では一点透視って習うんだもん。そうでないと描けない」って言われると……。それは頭の中で想像すれば OK でしょ、みたいなことを言っても通じないんですよね。
―それは、それこそ、「マンガはリアルじゃなくてリアリティ」っていうか、普通の絵じゃなくて、マンガ絵のリアルっていうのが、この点A ではなくて点B になるわけですか?
竹宮:そうです。たしかにそうだと思います。透視の焦点がちゃんと結ばれてなくても、そう見える絵ならいいんです。
―そう見える……。これも写真では絶対こういうふうには写らないけど……。
竹宮:写らないです。広角レンズ、魚眼に近いような極端な広角レンズを使えば写るかもしれない。
そういう意味では全然リアルじゃない。自分の都合に会わせて空間を曲げるわけだし、魚眼レンズだったら、法則にのっとって、決まった割合の曲り方しかしないでしょ。でも絵だったら、自分のピンポイントで、このへんだけはこっち側の透視図法で描いて、外側は違う透視図法で描くっていうことができる。しかも不連続を連続させて描くみたいなことができるわけなんです。
(中略)
―人間の眼で必ずしも一点透視で見てないんですね。
竹宮:見てないです。両方見てて、その間をうまく繋いでいる。こう見てて、こっちも見ていて、それを何となく繋いでいるから丸く見えててる、ていうか。
『竹宮惠子のマンガ教室』より引用)

なるほど。

マンガでは、一点透視で描いても、必ずしも線が一点(消失点)に収れんされる必要はないわけです。また二点透視図法などで描いても、ある側と別の側をそれぞれ別の透視図法で描いて、それを多少無理やりにでも繋げる、といったこともできるのです。

同書では、透視図法を無視した空間曲げの構図の例として、この作品が掲げられていました。

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参考になるかわかりませんが、今テレビで流れているスズキのハスラーというクルマのCMの画面はこのようになっています。

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実写に比べ、やはりマンガの方が空間が曲がっている印象です。(CMの方も、CGを使っているとは思いますが…)。

映画の世界では、機械的なカメラを使って撮影するので、透視図法を無視した構図をとることは難しいですね。広角レンズや魚眼レンズを使っても、(竹宮さんの言うように)決まった割合の曲げ方しかできませんから……。

たまに、それが上手くいく場合もあります。

例えば、スピルバーグ監督の傑作『激突!』では、踏切で、主人公の乗ったクルマが、後ろからトレーラーに押し出されそうになる場面では、広角レンズが効果的に使われています。
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広角レンズによる歪んだ映像が、巨大なトレーラーの不気味さを強調しているのです。

以上、てつさらが、さらっと書きました。