てつさらです。

今回も、映画とマンガの表現の違いについて書きます。

例えば、高層ビルの高さを強調したい場合、どのような演出方法が可能でしょうか。

映画においては、連続した時間の表現が可能です。

ですから、例えば、ビルの下のショットから、上方にパンアップ(カメラを上方に振る)して、その高さを強調することができます。このカメラの動きは、人がビルの下から上へ見上げるときの視線の動きと同じです。

この映像に、人が上を見上げるショット自体を加えると、よりはっきりとその意図を示すことができます。

超高層ビルの火災を描いた映画、『タワーリング・インフェルノ』には、まさにその手法が出てきます。

ビルに歩いて入ろうとする男が、入口の前で足を止め、ビルを見上げます。

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まず、男の顔が上を見上げるショット。

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次に、ビルの一階部分からカメラがパンアップして……

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視線はそのままビルの頂上へ。

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再び男の顔にもどり、男はその高さにあきれたように首を振ります。

これは、非常に効果的な表現方法です。

しかし、コマ割りされた非連続の表現しかできないマンガでは、この手法はなかなか難しい。かりに何とか描けたとしても、それだけで何コマも必要で、非効率的でもあります。

どうすればいいのか……。

マンガの一コマは、時間の瞬間だけを捉えたものではありません。それは静止した瞬間ではなく、そこにはある程度の時間の幅が凝縮されています。

『竹宮惠子のマンガ教室』には、その時間の幅を一コマで表す手法として「主観的マルチ多点透視」というものが紹介されています。

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この手法で描かれたビルには、遠くから近くへと、だんだんと近づいていく複数の視線が凝縮されています。

この手法を使えば、一コマで、多数の視点、ある程度の時間の幅を表現できるのです。これは、機械的な映像を記録することしかできないカメラには不可能な表現です。

この竹宮惠子さんの手法は大変興味深いので、次の投稿でも、引き続きご紹介したいと思います。

以上、てつさらが、さらっと書きました。