てつさらです。

今、私の手元には一冊の本があります。『私はなぜ書くのか』というマルグリット・デュラスのインタビュー集です。

この本には、ちょっとした記憶の引っかかりがあります。

私がこの本を最初に見たのは、去年の初夏の頃、東京の郊外の書店だったと思います。駅ビルの上の方の階に入っている清潔で、何の特徴もない書店でした。その時私は取材に行く途中で、少し時間が余ったのでその書店に入ったのです。そしてこの本を見つけました。

パラパラと中をめくって、結構面白そうな本だと直感しました。買おうかな、と思ったのですが……、確かその数日前にも結構本にお金を使ったこともあって、しばらく買うのをためらっていました。

その時、私の近くで、30歳ぐらいの女性が本を眺めていました。白いワンピースか何かを着ていたと思います。顔はほとんど見えませんでした。

その時にふと変な想像が私の頭を捉えました。私は貧乏な学生であり、そのデュラスの本を買うことができない。そこで私はその女性に声をかけて、その本を買ってくれと頼むのです。

もちろん急にそんな声をかけられて本を買ってくれる女性なんかいないと思います。しかし私は、ある条件を提示して、彼女に懇願するのです。その条件とは、もしその本を買ってくれたら、その本を読んだ感想を彼女に毎日メールで知らせるというものでした。

そして彼女はその提案を受け入れて、僕に本を買ってくれるのです。そこから、2人の奇妙な物語がスタートします。

こういう奇妙な、考えようによってはかなり変質者のような想像が私を捉えたのは、その本がデュラスの本であったからかもしれません。

その後、私は手にしていた本を棚に戻しその書店をあとにしました。

下りのエスカレーターに乗りながら、そういう書き出しの小説のその後のストーリーを色々と想像しました。

以前、小説を書いていた頃は、こういう変な想像をけっこうしていたのですが、最近はそういうことがほとんどなくなっていました。でもその日はなぜか、そういう変なインスピレーションが私を捉えたのです。

その後数ヶ月して、私はそのデュラスの本を購入しました。でもまだその本はなぜか読んでいません。今は読む必要さえないような気もします。何故かはわかりませんが……。

以上、てつさらがさらっと書きました。