てつさらです。

前回は、ビートたけしのお母さんや、日テレのドラマ『明日、ママがいない』を例に、時間軸上の後で起こった出来事が、その前にあったことを事後的に決定し直す、という「どんでん返し」の力について書きました。

今日はその別の例を紹介します。

 

■メーテルリンクの『青い鳥』

メーテルリンクの『青い鳥』という有名な話があります。皆さんも、童話などで読んだことがあると思います。

Maeterlinck

チルチルとミチルという兄妹が、ある日、隣の家に住む魔法使いの老婆から、病気の娘のために青い鳥を探してきてくれと頼まれます。そこで二人は、幸せの青い鳥を探しに旅に出ます。(家にはチルチルが飼っている鳥がいましたが、その鳥は青くなかったのです。)

兄妹は、思い出の国や未来の国など、さまざま訪ね歩きますが、結局鳥をつかまえることはできず、むなしく家に戻ります。

しかし、家に戻ってみると、家にもともといた鳥が実は青かったことに気づくのです。おかげで、病気だった隣の娘はすっかり元気になります。

一般に、青い鳥は幸せの象徴だとされています。

 

■青い鳥はいつ青くなった?

Photo of Western Blue Bird by CALIBAS, LIVERMORE, CA.
Photo of Western Blue Bird by CALIBAS, LIVERMORE, CA. / roberthuffstutter

ところで、この青い鳥、いったいいつ青くなったのでしょうか?

もともと青かったのでしょうか?(でも、そうなら、どうして最初は気づかなかったのでしょうか?)

それとも、子どもたちが家に帰ってきたら、青く色が変わったのでしょうか?

つまり、兄妹たちは、いつ幸福になったのでしょうか?もともと幸福だったのでしょうか?それとも家に戻ったときに、幸福になったのでしょうか?

 

■事後的に再決定される

この点に関して、哲学者の永井均氏は、『子どものための哲学対話』という本で、次のように書いています。(ちなみに、この本は、中学生の「ぼく」と、「ぼく」の家に住みついている猫の「ペネトレ」との対話の形式で描かれています。「ペネトレ」は猫ですが、非常に哲学的な発想をします。)

【ペネトレ】:たとえば、人にうまくだまされたりして自分は幸福だと思いこんでいた人が、だまされていたことに気づいたとき、そのとき不幸になるんじゃなくて、もともとほんとうは不幸だったって思うようになるだろう?つまり、たんに「もともと不幸だった」わけでもなくて、「気づいたときに<もともと不幸だった>ことになった」ってわけだ。「青い鳥」の場合はどうだろう?

【ぼく】:そうか、「青い鳥」の場合はその逆なんだ!子どもたちは、そのとき幸福になったわけでも、もともと幸福だったわけでもなくて、そのとき<もともと幸福だった>ってことになったわけだ。

『子どものための哲学対話』より引用)

これも、非常に面白い現象ですね。

時間が、時間軸の上を、左から右に流れているとします。そして、兄妹が旅に出た時点を「A」、二人が自分の家の鳥が青いと気づいた時点を「B」とします。

永井氏によると、Bの時点で、まるで時間軸上を遡るようにして、Aの時点(あるいはその前時点)から、もともと鳥が青かった(=もともと二人は幸福だった)ということになったわけです。

Aの時点で、飼っている鳥が青いと気づかなかった理由も、これではっきりします。

これも、時間軸上の後で起こった出来事が、その前のことを事後的に決定し直す、ということの一例ですね。

このように、時間の流れは、単純に、過去から現在、未来へと一直線に流れているわけではないのです。

以上、てつさらが、さらっと書きました。